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大阪地方裁判所 昭和23年(行)9号・昭42年(行ウ)75号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕第二、原告らの被告委員会に対する本件買収計画取消の訴、同知事に対する本件買収処分取消の訴、同国に対する同処分無効確認の訴について

一、一般に自創法による農地買収処分の無効確認の訴は、無効な買収処分によつて原告の農地所有権が国に移行した外観を呈し原告の右所有権の享有に不安、危険を生じている場合にその買収処分の無効を明確にして右の不安、危険を排除、解消するために認められたものであるから、右農地につきなんぴとかがその所有権を時効取得したときは原告において右所有権を失いその所有権の享有に関する不安、危険の排除が不用、無意味になるから、その訴の利益の消滅することは当然である(最判昭和三九年一〇月二〇日民集一八巻八号一七四〇頁参照)。

二、そして右結論は農地買収処分の取消の訴の場合においても変りはないと解すべきである。けだし農地買収処分の取消の訴は、違法な買収処分によつて原告の農地所有権が国に移行した場合にその買収処分を取消して右所有権を原告に復帰させるために認められたものであるところ、右農地につきなんぴとかがその所有権を時効取得したときは右所有権の原告への復帰という可能性は失われ右所有権の原告への復帰ということが不用、無意味となるからである。(なお買収または売渡の期日から時効の起算日までの間の権利関係を確定するためにのみ訴の利益を肯定することは取得時効制度の趣旨およびその根拠に照らして疑問がある。)

もつとも、農地買収処分の取消判決があるとその拘束力(行訴法三三条)により知事に原状回復の義務またはこれに代わる損害賠償義務が生ずることを理由として右の場合にも訴の利益は消滅しないとする考え方があるが、右取消判決の拘束力にそのような義務までが生ずることを認めることには疑問がある。

また右訴について国家賠償請求の前提として買収処分の違法を確定する意味があることを理由として右の場合にも訴の利益は消滅しないとする考え方があるがこれにも疑問がある。そもそも行政処分取消の訴にいう違法と国家賠償請求の訴にいう違法とが同一で行政処分取消判決の既判力は当該行政処分を原因とする国家賠償請求の訴におよぶと考えることにも疑問があり、更に行政処分が違法であることを理由として国家賠償の請求をするについてはあらかじめ右行政処分につき取消判決を得なければならないものではないものではないから、国家賠償を求める目的だけで行政処分の取消の訴の利益があるということはできない(最判昭和三六年四月二一日民集一五巻四号八五〇頁参照)。

三、更に農地買収計画の取消の訴の場合においても右と同じ結論になると解すべきである。けだし農地買収計画の取消の訴は違法な買収計画に基いて、更に買収処分がなされることによつて原告の農地所有権が国に移行する不安、危険のある場合に、右買収計画を取消して右不安、危険を排除するために認められたものであるところ、右農地につきなんぴとかがその所有権を時効取得したときは右不安、危険の排除が不用、無意味になるからである。

四、そこで本件についてこれをみると、第一土地については原告らの被告大阪府に対する訴において同被告によつて、第二、第三土地については原告らの被告田中に対する訴において同被告によつて(第三土地については更に原告らの被告坂本、同組合に対する訴においても同被告らによつて)それぞれ所有権の取得時効が援用されており、その援用の結果第一土地については被告大阪府が、第二、第三土地については被告田中がそれぞれ所有権を時効取得したことは後記第三の一記載のとおりであるから、結局右各訴と併合審理されてきた原告らの被告国に対する本件買収処分無効確認の訴、同知事に対する同取消の訴、同委員会に対する本件買収計画取消の訴の利益はいずれも消滅したというべきである。右訴はいずれも不適法である。

第三、原告らの被告委員会、同知事を除くその余の被告らに対する登記抹消、土地明渡の請求について

一、右被告らの時効取得の抗弁についてまず判断する。

(一) 被告田中外五名の被相続人辰之助が昭和二三年四月一二日ごろから所有の意思をもつて本件土地の占有を始めたこと、同人が同三二年二月一〇日死亡したこと、第一土地につき被告田中外五名が相続により同人の占有を承継した後同年一二月一八日被告大阪府がこれを買受け同被告らの占有も承継し現在まで継続していることは当事者間に争いがない。なお右事実によれば辰之助が右自主占有を開始してから死亡するまでこれを継続したこと、被告田中外五名が右占有を承継してから同大阪府に売渡すまでこれを継続したことが推定される(民法一八六条二項)。

そして<証拠>によれば、辰之助死亡後第二、第三土地については被告田中がこれを相続し同人の占有を承継し、第三土地については昭和四〇年九月三日これを被告坂本に売却するまで占有を継続し、第二土地については現在まで占有を継続していることが認められ、この認定をくつがえすに足りる証拠はない。

(二) そして<証拠>を総合すると、辰之助は昭和二三年四月一二日までに自創法一六条に基づき同二二年七月二日を売渡の期日とする本件土地の売渡通知書の交付を受けたこと(本件売渡処分)が認められ、この認定をくつがえすに足りる証拠はない。右事実と前記当事者間に争いのない、辰之助が昭和二三年四月一二日ごろから所有の意思をもつて本件土地の占有を始めた事実とを総合すると、辰之助は本件売渡処分を受けて以後昭和二三年四月一二日ごろから本件土地の自主占有を開始したものというべきである。

(三) ところで国から買収農地の売渡を受けた者は、売渡またはその前提たる買収に無効、取消事由たるかしがある場合においてもよほど特別の事情のない限り右売渡により適法に所有権を取得したと信じるものまた信じるについて過失はないものというべきである。

本件において原告らは、原告らが本件買収計画に対し異議、訴願をなし、かつ本件行政訴訟をもつて本件買収計画取消または買収無効確認の訴を提起していたこと、従つて右訴に対する判決の結果自己の所有権が消滅することがあるかもしれないということを辰之助は知つていたはずであるし、たとえ知らなかつたとしてもそのことに過失があると主張する。

本件記録中の検証調書の記載および被告田中本人の供述によれば、昭和二四年九月九日の本件検証期日に辰之助が事実上立会つたことが認められるのでその時に同人が本件行政訴訟の提起されている事実を知つたことは推認できるが、同人が本件売渡処分を受けて本件土地の自主占有を開始した昭和二三年四月一二日ごろすでに右事実を知つていたことを認むべき証拠はなく、また同人がそのころ、異議、訴願のあつた事実を知つていたことを認むべき証拠もない。よつて辰之助が右のごとき事実を知つていたことを前提とする原告らの主張は失当である。なおついでながら、原告らが請求の原因において主張するごとき無効、取消事由たるかしが仮りに存したとしても辰之助が右のごときかしの存在を知つたであろうとは考えられずまたこれを知つていたことを認むべき証拠もない。そして他に前記特別の事情があつたことを認むべき証拠はない。

よつて自主占有開始当時辰之助が悪意であつたということはできず、他方善意なることについて無過失であつたというべきである。

(四) なお原告らは被告大阪府の悪意有過失を主張しているが、占有の承継人たる被告大阪府において前主の占有をも併せて主張している本件においては、同被告の悪意有過失ということは問題にならないというべきである。その理由は次のとおりである。すなわち占有の承継があつた場合に承継人の占有については、前主の占有と同一性を有するところの前主から承継されて継続した占有(承継占有と仮称)と、承継人が自ら新たに開始した固有の占有(固有占有と仮称)との二面の観察を許すものであるから、承継人としては承継占有を主張することも固有占有を主張することも許される(民法一八七条一項)。ところで一般に取得時効の基礎となる占有のかしのうち悪意有過失についてはその占有開始の時を基準としてその有無を判断すべきものであり、占有開始の時に善意無過失であればその後悪意有過失に変じても影響はないとされている(民法一六二条二項参照)から、承継占有を主張する場合においても、悪意有過失についてはその占有開始の時すなわち前主の占有開始の時を基準としてその有無を判断すべきものであり、その時に善思無過失であればその後たとえ占有の承継があり承継人が悪意有過失で占有を承継したとしても影響はないというべきである(大審院明治四四年四月七日判決、民録一七輯一八七頁参照)。よつて原告らの右主張の事実につき判断する必要はない。

(五) 以上によれば、第一土地については被告大阪府が前々主辰之助、前主被告田中外五名の占有を併せ主帳しており、第二、第三土地については同田中が前主辰之助の占有を併せ主帳しているから、辰之助の自主占有開始の日から一〇年を経過した昭和三三年四月一二日ごろ取得時効によりそれぞれその所有権を取得したというべきである。

よつて被告委員会、同知事を除くその余の被告らの時効取得の抗弁は理由がある。(増田幸次郎 杉本昭一 古川正孝)

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